大判例

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最高裁判所第一小法廷 平成3年(行ツ)54号 判決

大阪市城東区今福南一丁目二番二四号

上告人

守田化学工業株式会社

右代表者代表取締役

守田嘉一

右訴訟代理人弁護士

吉利靖雄

同弁理士

青山葆

広島県尾道市向東町一四七〇三番地の一〇

被上告人

丸善化成株式会社

右代表者代表取締役

日暮兵士郎

同福山市桜馬場町二番二八号

被上告人

池田糖化工業株式会社

右代表者代表取締役

水ノ上禎男

和歌山市中之島一五七〇番地

被上告人

富士化学工業株式会社

右代表者代表取締役

谷為義継

右三名訴訟代理人弁護士

坂井一瓏

中山徹

右当事者間の東京高等裁判所平成元年(行ケ)第一九八号審決取消請求事件について、同裁判所が平成二年一二月二〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人吉利靖雄、同青山葆の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平 裁判官 味村治)

(平成三年(行ツ)第五四号 上告人 守田化学工業株式会社)

上告代理人吉利靖雄、同青山葆の上告理由

第一 原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背が存在する。

一 原判決は、昭和五〇年四月四日兵庫県西宮市で開催された日本薬学会第九五年会において、「stevla属植物成分の研究(3) stevla rebaudlana葉中のstevlosldeの定量法の研究」と題する発表がされたことにより、

1 ステビア・レバウディアナ葉中のグリコシド画分にはステビオサイドとは異なる別の物質が含まれ、

2 それが二四二℃~二四四℃の融点を有し、

3 収量二%程度の非常に甘い物質であるレバウディオサイドAが、本件出願前に公然知られた

と認定する(原判決二六丁裏)。

二 一方、上告人が、昭和五〇年六月四日に出願した特許出願明細書(以下出願明細書という)には、甘味物質Xなる物質について、

1 ノルマルプロビルアルコールと水とを二対一の割合で混合し、該混合液と酢酸エチルとを四〇対六〇の割合で混合し、一〇〇分としたものを展開溶媒として薄層クロマトグラフィーを行うと、ステビオサイドとは別のところにスポットが現れ、Rf値は〇・三五(原判決はRf値については、看過している)であること、

2 水及びアルコールに可溶、ピリジンに易溶、アセトンに僅溶、ベンゾール及びクロロホルム、エーテルに不溶であること、

3 融点が二三二~二三七℃であること、

4 比旋光度〔α〕24Dが-74°(〇・六ピリジン濃度)であること、

5 ステビオサイドより良質で苦みの全くない甘味を有すること、

6 ステビア・レバウディアナ・ボルトニーに含まれること、

7 ステビオサイドと起源は同一であるがそれとは異なる物質であること

なる理化学的特性を記載した(原判決三丁表ないし四丁表)。

三1 日本薬学会第九五年会で発表された右レバウディオサイドAなる物質の特性と出願明細書記載の甘味物質Xなる物質の特性を対比すると、出願明細書に記載の二項7および6の記載内容は、日本薬学会第九五年会で発表されたレバウディオサイドAなる物質に関する二項1の記載内容に対応し、二項3記載内容は、一項2の記載内容に対応する。

2 しかしながら、出願明細書に記載された二項5記載の内容は、甘味「質」についての記載であるところ、日本薬学会第九五年会の発表内容である一項3の内容は、甘味「度」についての記載であって、両者は対応しない。

なぜならば、本件出願明細書は、人間に用いる「食品又は医薬品の甘味付与方法」についてのものであるから、甘味の「質」をその理化学的特性にあげているのであって、従来、人間の用いる甘味物質について、その甘味の「強度」が問題とはされていないからである。

四1 一般に、公知発明といいうるためには、出願時において、一般の当業者であれば、先に発表された発明内容と出願明細書の発明とが一義的明確に同一であると断定できることが必要なのであって、単に、出願時において、一般の当業者が、先に発表された発明内容から類推すれば、出願明細書の発明とが、同一かも知れないと言った程度では足りないというべきである。

2 日本薬学会第九五年会で発表されたレバウディオサイドAなる物質と出願明細書に記載の甘味物質Xとは、各々発表された理化学的特性を対比すると両者は一致しないというのであるから、日本薬学会第九五年会で発表されたレバウディオサイドAなる物質に関する一項1ないし3記載の知見から出願明細書に記載の二項1ないし7の特性を持つ甘味物質Xなる物質が、レバウディオサイドAなる物質と一般の当業者が出願時に一義的明確に同一であると理解することは到底不可能である。一般の当業者は、出願時に甘味物質Xなる物質の理化学的特性を知っても、せいぜいレバウディオサイドAなる物質を想起して、これを類推するに留まるものというべきである。

つまり、レバウディオサイドAなる物質と出願明細書に記載の甘味物質Xのそれぞれの理化学的特性の相違点から見て、日本薬学会第九五年会において、両者が実質的、科学的に同一であると一般の当業者が出願時に判断しうる程度にレバウディオサイドAの特性が発表されたとはいえない。

それにも拘らず、原判決は、レバウディオサイドAが本件出願前に公然知られたと認定するのは、特許法二九条第一項第一号の解釈、適用を誤り、これは明らかに判決に影響を及ぼすものである。

第二 原判決には、理由不備の違法が存在する。

一 原判決は、本件発明の甘味物質Xと引用例記載のレバウディオサイドAとが同一であるか否かを判断するに当たっては、本件発明の特許請求の範囲に記載された甘味物質Xの構成要件と、引用例に記載されたレバウディオサイドAの理化学的性質とを比較すれば足りるとしたうえで、

本件甘味物質Xの構成要件は、

1 ステビア・レバウディアナ・ボルトニーに含まれること、

2 ステビオサイドとは異なること、

3 甘味を呈すること

と認定する(原判決二八丁表)。

二 しかしながら、甘味物質Xの構成要件は、右記載の内容に留まるものではなく、正しくは、第一、二項に記載の

1 ノルマルプロピルアルコールと水とを二対一の割合で混合し、該混合液と酢酸エチルとを四〇対六〇の割合で混合し、一〇〇分としたものを展開溶媒として薄層クロマトグラフィーを行うと、ステビオサイドとは別のところにスポットが現れ、Rf値は〇・三五であること、

2 水及びアルコールに可溶、ピリジンに易溶、アセトンに僅溶、ベンゾール及びクロロホルム、エーテルに不溶であること、

3 融点が二三二~二三七℃であること、

4 比旋光度〔α〕24Dが-74°(〇・六ピリジン濃度)であること、

5 ステビオサイドより良質で苦みの全くない甘味を有すること、

6 ステビア・レバウディアナ・ボルトニーに含まれること、

7 ステピオサイドと起源は同一であるがそれとは異なる物質であること

である。

なぜならば、「甘味物質X」なる出願人作成にかかる用語については、出願明細書の記載を参酌してはじめて、その意味内容が明らかにされるべきだからである。

三 従って、原判決は、甘味物質XとレバウディオサイドAとが同一であるか否かを判断するに当たって、甘味物質Xの構成要件である

1 ノルマルプロピルアルコールと水とを二対一の割合で混合し、該混合液と酢酸エチルとを四〇対六〇の割合で混合し、一〇〇分としたものを展開溶媒として薄層クロマトグラフィーを行うと、ステビオサイドとは別のところにスポットが現れ、Rf値は〇・三五であること、

2 水及びアルコールに可溶、ピリジンに易溶、アセトンに僅溶、ベンゾール及びクロロホルム、エーテルに不溶であること、

3 融点が二三二~二三七℃であること、

4 比旋光度〔α〕24Dが-74°(〇・六ピリジン濃度)であること、

5 ステビオサイドより良質で苦みの全くない甘味を有すること、

6 ステビア・レバウディアナ・ボルトニーに含まれること、

7 ステビオサイドと起源は同一であるがそれとは異なる物質であること

とレバウディオサイドAの理化学的性質である

1 ステビア・レバウディアナ葉中のグリコシド画分にはステビオサイドとは異なる別の物質が含まれること

2 それが二四二℃~二四四℃の融点を有すること、

3 収量二%程度の非常に甘い物質であること

とを対比せしめるべきところ、

原判決は、誤って、甘味物質Xの理化学的特性のうち、

1 ステビア・レバウディアナ・ボルトニーに含まれること、

2 ステビオサイドとは異なるものであること、

3 甘味を呈すること

なる理化学的特性のみとレバウディオサイドAの理化学的性質である

1 ステビア・レバウディアナ葉中のグリコシド画分にはステビオサイドとは異なる別の物質が含まれること

2 それが二四二℃~二四四℃の融点を有すること、

3 収量二%程度の非常に甘い物質であることとを対比せしめたに過ぎないのである。

よって、この点において、原判決には理由不備が存在する。

以上

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